日本で作られるお米は、私たちが食べるものだけではありません。家畜のえさになる「飼料用米」、米菓や味噌、日本酒の原料になる「加工用米」があります。どう違い、なぜ作られるのか。そして意外にも、これが食卓の値段とつながっています。
① 飼料用米は家畜のえさ専用。法律で用途が限定され、袋や伝票に「飼」と表示し、主食用として売ることは禁止されています。
② 米価が上がると飼料用米は主食用に戻ります。令和4年産14.2万haから令和7年産4.6万haへ、3分の1以下に減りました。
③ 加工用米が足りず、政府備蓄米が米菓や味噌の原料に回されています(令和7年度52,172トン)。
飼料用米とは|用途が法律で決まっているお米
飼料用米は、牛や豚、鶏のえさにするために作られるお米です。制度上は「新規需要米」という区分に入ります。新規需要米には、飼料用のほか米粉用、WCS用稲(稲を丸ごと発酵させた飼料)、青刈り稲、新市場開拓用があります。
加工用米と新規需要米は、食糧法上の「用途限定米穀」です。決められた用途以外に使ったり売ったりすることは禁止され、次のルールがあります。
- 用途ごとに分けて保管する(別はい保管)
- 包装や伝票に用途を表示する(加工用米=「加」、米粉用米=「粉」、飼料用米=「飼」)
- 違反すると勧告・命令、従わない場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金
主食用米と何が違うのか
いちばんの違いは目指すものが味ではないことです。農林水産省は飼料用米を「食味等が重視されない一方、低価格での供給が求められる」と位置づけています。品質より、たくさん穫れることと安く作れることが優先されます。
そのため専用の多収品種が開発されています。試験場での実証単収を主食用米と比べると差は明らかです。
| 品種 | 単収(10aあたり) |
|---|---|
| モミロマン(飼料用の多収品種) | 823kg |
| 北陸193号(同) | 780kg |
| べこあおば(同) | 732kg |
| 主食用米の全国平均(令和8年産) | 538kg |
多収品種は収量性・飼料適性・栽培特性・病害抵抗性を重点に開発されており、いもち病への抵抗性は主食用品種より強いものが多くあります。大粒で乳白粒が多く、玄米の状態で見分けやすいのも特徴です。
検査規格も別で、飼料用米には平成26年に専用の農産物検査規格が設けられました。主食用の等級についてはお米の等級とはをご覧ください。
作付けは激減している
飼料用米の作付面積と生産量の推移です。
| 年産 | 作付面積 | 生産量 |
|---|---|---|
| 令和3年産 | 115,744ha | 662,724トン |
| 令和4年産 | 142,055ha | 803,390トン(ピーク) |
| 令和5年産 | 133,925ha | 744,893トン |
| 令和6年産 | 98,666ha | 522,631トン |
| 令和7年産 | 46,004ha | 252,198トン |
ピークだった令和4年産から3分の1以下です。理由は単純で、主食用米の値段が上がったから。同じ田んぼで主食用を作った方が実入りがよくなれば、作付けはそちらへ移ります。実際、主食用米の作付面積は令和6年産125.9万haから令和7年産136.7万haへ増えました。
令和8年産の作付意向(6月末時点)では、飼料用米2.6万ha(前年差▲2.0万ha)、加工用米4.5万ha、米粉用米0.6万ha、備蓄米3.9万haとなっています。
交付金の仕組み
飼料用米が作られてきたのは、交付金があるからです。水田活用の直接支払交付金では、飼料用米・米粉用米は収量に応じて10aあたり5.5万〜10.5万円(数量払い)、加工用米は2万円(定額)などとなっています。
ただし飼料用米のうち、主食用と同じ「一般品種」への単価は段階的に引き下げられています。
| 年産 | 一般品種の交付単価(10aあたり) |
|---|---|
| 令和6年産 | 5.5〜9.5万円(標準7.5万円) |
| 令和7年産 | 5.5〜8.5万円(標準7.0万円) |
| 令和8年産 | 5.5〜7.5万円(標準6.5万円) |
多収品種は従来どおり5.5〜10.5万円です。引き下げの理由として農林水産省は、限られた面積で収量を上げるには多収品種が向くこと、一般品種は需給次第で主食用に戻りやすく供給が安定しないことを挙げています。実際、令和7年産の飼料用米の87%(40,206ha)が多収品種で、一般品種は13%(5,799ha)でした。
2026年6月に公表された「新たな水田政策」では、令和9年度から支援の形を作物ごとの生産性向上支援へ転換する方針が示されています。飼料用米については、畜産物の差別化に取り組む実需者との複数年契約など、耕畜連携が要件になる見込みです。
加工用米とは|契約にもとづいて作られる
加工用米は、主食用では価格的に対応しにくい加工用途向けに、農業者と加工業者の契約のもとで生産されるお米です。用途は次のようなものです。
- 清酒などの酒類
- 加工米飯(パックごはんなど)
- みそなどの調味料
- 上新粉などの粉類
- 米菓(せんべい・あられ)
作付面積は令和元年産46,737ha(252,926トン)から令和6年産50,197ha(272,317トン)とほぼ横ばいで推移してきましたが、令和7年産は44,190ha(244,018トン)に減りました。飼料用米と同じく、主食用への回帰が起きています。
加工用米が足りず、備蓄米が回されている
2025〜2026年に起きたのは、加工用米の不足です。加工用米の生産が減り、ふるい下米(小さい粒)の発生も減ったことで、米菓や味噌の原料が確保しにくくなりました。
そこで政府備蓄米が加工原材料向けに販売されています。令和6年度は1万トン、令和7年度は52,172トン(令和2年産、玄米151,840円/トン・精米187,460円/トン、いずれも税抜)。ミニマムアクセス米の加工原材料用の販売も、令和7米穀年度で142,931実トンと高い水準でした。
米菓の輸出も「主食用米の価格高騰による原料米の供給不足の影響により減少」と記録されています(2025年の輸出額43億円)。主食用米の値段は、せんべいやパックごはん、味噌にまで波及するということです。
米粉用米との違い
紛らわしいのが米粉用米です。これは新規需要米の一区分で、パンや麺など小麦の代わりになる用途向けと定義されています。一方、上新粉や米菓など昔からある粉用途は加工用米に分類されます。同じ「粉にする」でも区分が分かれる点が独特です。
米粉用米の作付は令和4年産8,403ha→令和7年産3,514haと減りましたが、令和8年産の意向は0.6万ha(前年差+0.2万ha)と反転しています。
食卓とのつながり
消費者の立場で知っておくとよいことを整理します。
飼料用米が食卓に出ることはない
用途外の使用は法律で禁止され、罰則もあります。用途表示、別はい保管、区分流通が義務づけられ、契約書にも転用禁止が明記されます。主食用と同じ田んぼで作る「一括管理方式」は令和7年産で3%(1,465ha)にとどまり、97%は別の田んぼで作られています。
家畜が食べるお米は飼料用米だけではない
令和6年度に飼料に回されたお米114万トンの内訳は、国産飼料用米52万トンに加え、政府所有米穀62万トン(備蓄米12万トン、ミニマムアクセス米50万トン)です。
値段の世界がまったく違う
飼料用米の買い手は「配合飼料の主原料であるトウモロコシと同等かそれ以下の価格」を求めています。主食用米とは価格帯が別物で、だからこそ交付金がなければ成り立ちません。
よくある誤解
「飼料用米=質の悪いお米」
正確ではありません。設計思想が食味ではなく収量と低コストにあるだけです。多収品種は病害抵抗性など別の性能を重視して開発されています。
「出来の悪い主食用米を横流ししている」
令和7年産の87%は飼料用の専用品種です。ただし一般品種も13%あり、品種だけで線が引かれているわけではありません。
「加工用米は余ったお米の処分先」
逆です。加工用米は需要者との契約にもとづく契約栽培で、2025〜2026年はむしろ足りず、備蓄米で補っている状況です。
よくある質問
飼料用米が主食用として売られることはありますか?
なぜ飼料用米の作付けが急に減ったのですか?
加工用米はどんな食品になりますか?
お米が高くなると、せんべいや味噌も高くなりますか?
飼料用米と米粉用米はどう違いますか?
- 農林水産省「米をめぐる状況について」(令和8年3月)
- 農林水産省 飼料用米の生産・利用
- 農林水産省 多収品種の栽培マニュアル
- 農林水産省 用途限定米穀の流通ルール
- 農林水産省 加工用米・新規需要米の取組計画認定状況
- 農林水産省 新たな水田政策(令和8年6月11日)
制度や数値は改正・更新されます。最新の内容は各出典をご確認ください。








