2025年、スーパーに「備蓄米」と呼ばれるお米が並びました。5kgで2,000円ほどという価格が話題になった一方、「古いお米では」「味は大丈夫なのか」という声もありました。政府備蓄米とは何なのか、どういう仕組みで動いているのかを、法律と農林水産省の資料で整理します。
① 1993年の大凶作をきっかけに、1995年の食糧法で制度化された不作に備える国の在庫です。
② 適正水準は毎年6月末で100万トン程度。毎年20〜21万トンを買い入れ、5年ほど保管した後は飼料用など非主食用に回します。
③ 2025年に約59万トンを放出。2026年6月末の在庫は32万トンまで減り、9月には初めての買い戻しが行われています。
政府備蓄米とは|不作に備えて国が持つお米
政府備蓄米とは、お米が足りなくなる事態に備えて国が持っている在庫のことです。根拠は「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(食糧法・平成6年法律第113号)。第3条第2項で、米穀の備蓄を「米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備え、必要な数量の米穀を在庫として保有すること」と定義しています。買入れと売渡しの根拠は第29条です。
きっかけは1993年(平成5年)の大凶作でした。作況指数74という記録的な不作でタイ米の緊急輸入が行われ、いわゆる「平成の米騒動」が起きます。これとウルグアイ・ラウンド合意への対応を契機に、1942年から続いた食糧管理法が廃止され、1995年に食糧法が施行されました。以後、国の役割は備蓄とミニマムアクセスの運営に絞られています。
なぜ「100万トン」なのか
適正備蓄水準は毎年6月末時点で100万トン程度とされています。この数字は、平成13年12月の備蓄運営研究会報告にさかのぼります。
考え方は「10年に1度の不作(作況92)や、通常程度の不作(作況94)が2年続いても、国産米で対処できる水準」。試算は次のとおりです。
| 想定 | 必要量 |
|---|---|
| 10年に1度の不作(作況92) | 93〜108万トン |
| 通常の不作(作況94)が2年連続 | 79〜94万トン |
前提の数字は古くなっています
この試算は平成13年当時の年間需要量900万トンを前提にしたものです。現在の需要は約700万トン。農林水産省自身が2025年10月の資料で、前提が古いことを課題として挙げています。
どうやって回しているのか|棚上備蓄という方式
いまの方式は棚上備蓄です。平成23年度(2011年度)から採用されました。
| 回転備蓄(〜平成22年度) | 棚上備蓄(平成23年度〜) | |
|---|---|---|
| 買い方 | 主食用の需給の中から買う | 主食用の需給の外から、収穫前の事前契約で買う |
| 出し方 | 一定期間保管後、主食用として売る | 一定期間保管後、飼料用など非主食用に売る |
| 買入量 | 毎年50万〜150万トン程度 | 毎年20万〜21万トン程度 |
| 更新 | 100万トンを毎年半分ずつ | 100万トンを5年かけて更新 |
回転備蓄をやめた理由は、全量を主食用に売る前提だったために需給が緩むと売れ残り、在庫と財政負担が膨らんだからです。市場に影響を与えず、生産者が毎年安定して備蓄米を作れるように、と説明されています。
買入れは出来秋の価格に影響しないよう事前契約+一般競争入札で行われます。保管は民間倉庫への委託です(政府倉庫は平成22年9月末までに全廃)。
いくらかかっているのか
備蓄には費用がかかります。2021年度決算では、保管経費等が約113億円、売買損益が約▲377億円。合わせて年間およそ490億円の負担です。備蓄1トンあたりでは約4万9,000円になります。
財務省は2025年11月の資料で、令和5年度実績ベースの試算として20万トン分で403億円(保管・運搬等70億円+売買差損333億円)、民間保管であれば16億円という比較を示しています。備蓄のあり方は、こうした費用の議論とセットで検討されています。
2025年に何が起きたのか|59万トンの放出
2024年からの米価高騰を受け、政府は備蓄米を放出しました。もともと備蓄は「不作による供給不足」に備えるものでしたが、2025年1月に基本指針を変更し、「主食用米の円滑な流通に支障が生じる場合」にも売り渡せるようにしています。
第1段階:競争入札(約31万トン)
| 回 | 時期 | 数量 | 落札価格(玄米60kg・税抜) |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 2025年3月10〜12日 | 141,796トン | 21,217円 |
| 第2回 | 2025年3月26〜28日 | 70,336トン | 20,722円 |
| 第3回 | 2025年4月23〜25日 | 100,164トン | 20,302円 |
集荷業者向けで、1年以内(のちに原則5年以内)に買い戻す条件が付いていました。ただし店頭価格はなかなか下がりませんでした。
第2段階:随意契約(約28万トン)
2025年5月26日から方式が変わります。会計法にもとづく随意契約で、大手小売→中小小売・米穀店→中食外食の順に対象を広げ、申込は279,976トン・906社。売渡価格は令和4年産11,010円、3年産10,080円、2年産9,140円(いずれも玄米60kg・税抜)で、店頭5kg 2,000円程度が想定されました。これが「2,000円の備蓄米」として話題になったお米です。
スーパーの平均価格は2025年6月2日週の4,176円から7月28日週の3,542円へ下がりましたが、新米が出回る秋には再び上昇しました。
2026年9月のいま|在庫は32万トン、初の買い戻しへ
放出の結果、備蓄は大きく減りました。
| 時点 | 政府備蓄米の在庫 |
|---|---|
| 2025年3月末 | 96万トン |
| 2025年6月末 | 60万トン |
| 2026年6月末 | 32万トン(令和2年産15/3年産12/4年産1/5年産2/6年産2万トン) |
適正水準100万トンに対して3分の1以下です。令和8年産の買入契約21万トンを加えても53万トンにとどまります。
2026年9月1日、農林水産大臣は令和7年産21万トンの買い戻しを表明しました。売渡しの際に「5年以内に買い戻す」条件が付いていた分を、見積り合わせによる随意契約で買い戻すものです。政府が放出した備蓄米を買い戻すのは初めてになります。
制度自体も変わりました。2026年7月8日に改正食糧法が成立し、備蓄の目的が「需要量の増加等による供給不足」にも広がったほか、一定規模以上の民間事業者に在庫の保有を義務づける民間備蓄制度が新設されています(施行は公布から2年以内)。
備蓄米は買えるのか
2026年9月時点では、新たに店頭に出る備蓄米はありません。買戻し条件付きで放出された分は2026年7月5日までに、随意契約分も2026年7月に販売・使用が終了しています。
なお、こども食堂・こども宅食・フードバンク・学校給食に向けては、政府備蓄米を無償で交付する制度があります(交付要領は2026年2月改正)。
袋の表示はどうなるか
備蓄米は産地・品種・産年がそろっていないため、通常は「複数原料米」として表示されます。「国内産 10割」といった書き方です。表示の読み方は単一原料米と複数原料米の違いで解説しています。
味はどうなのか
「古いお米だからまずいのでは」という声がありました。農林水産省が公表している数字で見てみます。
食味計の測定値では大きな差は出ていない
農林水産省は2025年5月、放出対象の備蓄米について食味計による品質評価値を公表しました。
| 品種(茨城県産) | 令和6年産 | 令和5年産 | 令和4年産 | 令和3年産 |
|---|---|---|---|---|
| にじのきらめき | 75 | 76 | 71 | 74 |
| あさひの夢 | 70 | 73 | 70 | 74 |
農林水産省はこの結果を「6年産と比較して、3年産、4年産とも米の劣化が感じられない程度の差」と評価しています。ただし食味計は成分から算出する機械の数値で、人が食べた評価(官能試験)ではありません。備蓄米を対象にした公的な官能評価のデータは見当たりませんでした。
15℃以下で保管されている
備蓄米は品質劣化を防ぐため、倉庫内の温度15℃以下、湿度60〜65%で保管されています。玄米の状態で保管する点もポイントです。出庫時には試料を採取して分析機関で化学分析も行われており、食品衛生法の規制値を超えたものはないと公表されています。
そのうえで、事実として言えることを挙げます。
放出されたのは古いお米ばかりではない
2025年の入札分31万トンは、令和6年産14万トン・令和5年産17万トンと新しい年産が中心でした。古い年産(令和2〜4年産)は随意契約や加工原材料用に回っています。
古米になると何が起きるか
古米臭の仕組みは分かっています。玄米の脂質が酵素で遊離脂肪酸に分解され、酸化してペンタナールやヘキサナールといった成分になります。ただし保管温度の影響が大きく、新潟大学の試験(農林水産省サイト掲載)では、5℃・15℃の低温貯蔵ではコシヒカリで古米化がほとんど見られなかったのに対し、25℃・35℃では脂肪酸度の増加など古米化が進みました。
出荷前に品質を確認している
放出にあたってはメッシュチェック(玄米を金属の網に通し、1袋ずつ詰め替えながら目視で品質変化や異物混入を確認する作業)が行われました。丁寧な反面、出庫に時間がかかったことは農林水産省自身が課題として挙げています。
古いお米を美味しく炊くコツはこちらの記事で紹介しています。浸水と水加減で印象は変わります。
よくある誤解を整理する
「備蓄米=古米ばかり」
2025年に入札で放出された31万トンは令和6年産・5年産が中心でした。年産は放出の枠組みによって違います。
「政府米だから安い」
自動的に安いわけではありません。2025年3〜4月の入札落札価格は玄米60kgあたり20,302〜21,217円で、市場価格並みでした。安かったのは、定価で売り渡した随意契約分です。
「備蓄米は家畜用のお米」
違います。買入れの時点では主食用の国内産うるち玄米です。5年ほど保管して主食用として使われなかった分が、飼料用など非主食用に回ります。
「放出すればすぐ安くなる」
2025年の実績では、随意契約の開始後に平均価格が約630円下がりましたが、その後の新米シーズンには再び上昇しました。放出だけで価格が決まるわけではありません。詳しくは令和の米騒動とはをご覧ください。
よくある質問
政府備蓄米はどれくらいあるのですか?
備蓄米は何年保管されるのですか?
備蓄米はいま買えますか?
備蓄米は美味しくないのですか?
備蓄米だと袋に書いてありますか?
備蓄にはいくらかかっているのですか?
- 農林水産省 米の備蓄政策について(令和7年10月・食糧部会資料)
- 食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)
- 農林水産省 米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(令和8年9月2日)
- 農林水産省 政府備蓄米の随意契約による売渡し
- 農林水産省 大臣記者会見(2026年9月1日・買戻しについて)
- 農林水産省 お米の保存と古米化
- 農林水産省 政府備蓄米の品質・食味について
- 農林水産省 政府備蓄米の品質確認について
- 財務省 財政制度等審議会 資料(令和7年11月)
制度や数値は改正・更新されます。最新の内容は各出典をご確認ください。








