2024年の夏、スーパーからお米が消えました。その後2年にわたって価格は高騰し、2026年に入ってようやく落ち着いてきています。いったい何が起きていたのか。農林水産省自身の検証資料と価格統計をもとに、事実として言えることだけを整理します。
① きっかけは2024年8月の買い急ぎ。ただし根っこにあったのは生産量が需要に足りていなかったことでした。
② スーパーの平均価格(5kg)は2025年12月に4,416円まで上がり、2026年8月末には3,003円まで下がっています。
③ 政府は備蓄米を約59万トン放出。値下がりは一時的で、本格的な下落は2026年産の増産を待つことになりました。
何が起きたのか|2年間の流れ
まず時系列で整理します。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年夏 | 記録的な高温。作況指数は101だったが、1等米比率は全国61.3%に低下 |
| 2024年8月 | 南海トラフ地震臨時情報をきっかけに買い急ぎが発生、店頭から米が消える |
| 2024年秋〜2025年春 | 新米が出回っても価格は下がらず上昇が続く |
| 2025年2月 | 政府が備蓄米21万トンの放出を決定、3月に競争入札 |
| 2025年5月 | 随意契約方式に変更(玄米60kgあたり10,700円、店頭2,000円台を目標) |
| 2025年8月 | 農林水産省が価格高騰の検証結果を公表 |
| 2025年秋 | 2025年産は増産。ただし価格は再び上昇 |
| 2026年 | 価格は下落基調へ。8月末の平均は5kg 3,003円 |
なぜ足りなくなったのか
農林水産省は2025年8月の検証で、生産量が需要に対して不足していたと結論づけています。買い占めや隠匿が主因という話ではありませんでした。
需要はむしろ増えていた
玄米ベースの需要実績は、2022/23年691万トン→2023/24年705万トン→2024/25年713万トンと増えていました。人口減少で需要は減り続けるという前提で見通しを立てていたため、この増加を読み違えたことになります。
同じ玄米から取れる白米が減った
高温の影響で精米歩留まりが下がりました。2023年産は88.6%(2020〜22年産平均比▲1.4ポイント)、2024年産は89.2%(同▲0.8ポイント)。同じ量の玄米からできる白米が減るため、必要な玄米の量が増えます。
家庭の購入量も増えた
二人以上世帯の1世帯あたり年間購入量は56.6kg(2022/23年)→60.2kg(2024/25年)に増加。総量では2024/25年に+10.7万トンと推計されています。ただし増えた理由そのものは「特定することは難しい」と検証資料も認めています。
インバウンドの影響は限定的
訪日客の消費は2022/23年2.1万トン→2024/25年6.3万トンと推計されています。増加はしていますが、700万トン規模の需要からすると小さく、主因と呼べる水準ではありません。
結果として生じた不足の規模
検証資料の推計では、生産量の不足は2023/24年で40〜50万トン程度(需要比6〜8%)、2024/25年で20〜30万トン程度(同4〜5%)。いずれも「程度」と幅で示された推計値で、確定した数字ではありません。
価格はどう動いたか
スーパーの店頭価格(全国約1,000店舗のPOS平均、精米5kg・税込)の動きです。
| 時点 | 平均価格(5kg) |
|---|---|
| 2025年2月3日週 | 3,829円 |
| 2025年5月12日週 | 4,285円(第1波のピーク) |
| 2025年7月28日週 | 3,542円(備蓄米の随意契約後) |
| 2025年12月29日週 | 4,416円(公表系列中の最高値) |
| 2026年2月2日週 | 4,204円 |
| 2026年8月31日週 | 3,003円(前年同期比▲27.7%) |
生産者から卸へ渡る段階の相対取引価格(全銘柄平均・玄米60kg・税込)も、2023年産15,315円→2024年産25,179円→2025年産35,451円(速報)と大きく上がりました。
価格の数字を比べるときの注意
POS価格は「精米5kg・税込」、相対取引価格は「玄米60kg・税込」です。単位も流通段階も違うので、単純に比べることはできません。
政府は何をしたのか
中心は備蓄米の放出でした。2025年3月からの競争入札で集荷業者へ約31万トン、5月末からの随意契約で小売・外食などへ約28万トン、合わせて約59万トンが売り渡されました。
効果として確認できるのは、随意契約が始まった後、POS平均が2025年6月2日週の4,176円から7月28日週の3,542円まで約630円下がったことです。ただし2025年産の新米が出回る9月以降は再び4,000円を超えており、下落は一時的でした。
検証資料では、農林水産省自身の反省点として「流通実態の把握に消極的だった」「情報発信・対話が不十分だった」「備蓄米の放出時期が遅れた」ことが挙げられています。あわせて、今後は増産に舵を切る方針が示されました。
2026年のいま、どうなっているか
状況はかなり変わりました。
- スーパーの平均価格は5kg 3,003円(2026年8月31日週)。104週ぶりに3,100円を割りました
- 民間在庫は積み上がっています。2026年6月末で243万玄米トン(前年155万トン)。出荷・販売段階に限った7月末の在庫は162万玄米トンで、前年同月比+70万トンと過去最高水準です
- 2025/26年の需要実績は683万玄米トン(速報値)。前年の713万トンから減っており、高値による買い控えが表れたとみられます
- 2026年産の作付意向(6月末時点)は主食用米136.0万ha
在庫の数字は定義が2つあります
「6月末243万トン」は生産者在庫を含む数字、「7月末162万トン」は出荷・販売段階のみの数字です。報道で数字が食い違って見えるのは、この定義の違いによることがあります。
「令和の米騒動」という呼び方について
この呼び方は報道や世間で使われる通称です。農林水産省の資料では「今般の米の価格高騰」などと表現されており、公的な名称ではありません。
1918年(大正7年)の米騒動は、シベリア出兵を背景にした投機的な買い占めで米価が2年で約3倍になり、富山から全国へ打ちこわしや焼き討ちを伴う暴動が広がって、寺内内閣の総辞職にまで至った事件です。今回は品薄と価格高騰であり、性質はまったく異なります。
また1993年の「平成の米騒動」は作況指数74という記録的な凶作が原因でした。2023年産の作況指数は101で平年並みだった点も違いです。
まだ分かっていないこと
断定を避けるべき論点もあります。
- 「どこかが売り惜しみしていた」説:2025年1月末の調査では、生産者から集荷業者への出荷が▲31万トン減る一方、生産者の直接販売などが+44万トン増えていました。在庫が分散していたことは示されましたが、投機的な売り惜しみがあったと立証したものではありません
- 不足の規模:40〜50万トンなどの数字は幅をもった推計です
- 2025年秋の再上昇の理由:集荷競争や概算金の高騰が指摘されていますが、公的な検証資料は見つかりませんでした
- 2026年産の見通し:作柄次第で上下すると農林水産省自身が明記しています
これから何を見ればいいか
お米の値動きを追いたい人が見るべき公的データは3つです。
- スーパーのPOS価格(週次・農林水産省が毎週公表):店頭価格の実勢がすぐ分かります
- 相対取引価格(月次):生産者から卸へ渡る段階の価格。翌シーズンの店頭価格の先行指標になります
- 基本指針(年数回):国の需給見通しと備蓄の方針
価格がどう決まるのかの基本はお米が高い理由で、作る量を調整してきた政策の歴史は減反政策とはで解説しています。
よくある質問
令和の米騒動の原因は何だったのですか?
備蓄米を出したのに、なぜすぐ安くならなかったのですか?
お米の値段は今後も下がりますか?
2024年の米不足は1918年の米騒動と同じものですか?
お米が足りないとき、どうすればよかったのですか?
- 農林水産省「今般の米の価格高騰の要因や対応の検証」(令和7年8月)
- 農林水産省「米をめぐる状況について」(令和8年3月)
- 農林水産省 スーパーでの販売数量・価格の推移(KSP-POS)
- 農林水産省 米の相対取引価格・数量
- 農林水産省 米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(令和8年7月)
- 農林水産省 政府備蓄米の随意契約による売渡し
- 国立公文書館 米騒動(1918年)
制度や数値は改正・更新されます。最新の内容は各出典をご確認ください。








