お米の袋や産地のサイトで「食味値80」といった数字を見かけます。この数字は何を測っていて、どこまで信じてよいのでしょうか。測定のしくみと、味を左右するタンパク質の話、そして数値の限界まで整理します。
① 食味値は、近赤外線などでタンパク質・アミロース・水分などを測り、計算式で味を推定した数字です。
② タンパク質が少ないほど良食味とされます。目安は精米で7%未満が「良い」(静岡製機の基準・2023年)。
③ ただし機種によって数値が違い、人が食べた評価との相関も必ずしも高くありません。目安として使うのが正解です。
食味値とは何を測っているのか
食味値を出す機械は「食味計(食味測定機器)」と呼ばれます。お米に近赤外線などを当てて成分を測り、あらかじめ組み込まれた計算式(検量線)で味を推定するしくみです。人が食べているわけではありません。
測定方式は大きく3つに分かれます。
| 方式 | 主な測定項目 |
|---|---|
| 近赤外反射式 | 水分・タンパク質・アミロース・粘り・食味推定値など |
| 近赤外透過式 | 水分・タンパク質・アミロース・脂肪酸度・食味推定値など |
| 保水膜式(味度計) | 食味推定値(味度)のみ |
代表的な機種では、静岡製機のSREシリーズが水分・タンパク質・アミロース・脂肪酸度・食味スコア、サタケの米粒食味計が食味値・タンパク質・水分・アミロース・脂肪酸度、ケツト科学のAN-820が水分・タンパク質・アミロースと品質評価値を表示します。
タンパク質が少ないほど美味しい、とされる理由
食味値を左右する最大の要素がタンパク質です。青森県が農林水産省サイトで公開している資料には「一般に玄米中タンパク質含有率が高くなると、官能試験における総合評価は品種に関わらず低下する」と書かれています。同じ品種なら、タンパク質が高いほど味と粘りが落ち、硬さが増します。
理由は3つ挙げられています。
- タンパク質の粒がでんぷんの吸水・膨潤を邪魔する
- でんぷんの糊化(のり状になること)を直接抑える
- タンパク質が多い条件で育ったでんぷんは、そもそも糊化しにくい構造になる
精白米のタンパク質はふつう5〜8%程度です。興味深いのは、タンパク質は肥料の与え方で大きく変わる点です。青森県農業試験場の分析では、タンパク質への影響は品種23%・施肥36%、アミロースは品種74%・施肥2%。つまりアミロースは品種でほぼ決まり、タンパク質は育て方で動きます。
数値の目安
静岡製機が公表している目安です(2023年4月時点)。
| 項目 | 良い | 普通 | 劣る |
|---|---|---|---|
| 玄米タンパク質 | 8%未満 | 8〜9% | 9%超 |
| 精米タンパク質 | 7%未満 | 7〜8% | 8%超 |
| アミロース | 18%未満 | 18〜22% | 22%超 |
| 脂肪酸度(玄米) | 16未満 | 16〜20 | 20超 |
| 食味スコア | 70〜80でやや良い | 60〜70 | 60未満 |
数値を比べるときの注意
タンパク質の表示には、水分0%に換算した「乾物基準」と、測定時の水分のままの値の2通りがあります。また玄米より精米のほうが0.5〜1.5%低く出ます。産地どうしの数字を比べるときは、同じ基準かどうかを確認する必要があります。
産地はこの数値をどう使っているか
食味値は消費者向けの宣伝だけのものではなく、産地の品質管理に使われています。市町村別の食味マップを作ったり、生産者ごとの「食味診断カルテ」を作って営農指導に活かしたりします。荷受けの段階でタンパク質の値によって仕分けする施設もあります。
ブランド基準に組み込んでいる例もあります。北海道の「ゆめぴりか」は、精米タンパク7.4%以下を基本とするブランド基準を設けています(北海道米の新たなブランド形成協議会)。
福井県の指導手引き(平成27年度)では、食味ランキングで特A水準を確保するための条件として、味度80以上・玄米タンパク質6.5%以下・整粒歩合70%以上を挙げています。ただし同じ資料は、玄米タンパク質が5.5%未満と低すぎる場合には基白粒や胴割粒が出やすく、かえって食味評価が落ち込む危険があるとも書いています。低ければ低いほど良いわけではありません。
食味ランキングとは何が違うのか
混同されやすいのが、日本穀物検定協会の「米の食味ランキング」です。こちらは機械ではなく人による官能試験です。
| 食味値(食味計) | 食味ランキング | |
|---|---|---|
| 測るもの | 成分から推定した数値 | 人が食べた評価 |
| 方法 | 近赤外線などで成分を測定 | 専門の評価員20名が基準米と比較 |
| 評価項目 | 機種による(タンパク質・アミロースなど) | 外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価 |
| 結果の形 | 点数(例:80) | 特A・A・A’・B・B’ |
食味ランキングは昭和46年産から毎年行われており、令和7年産は55回目。144の産地品種を試験し、特A43・A71・A’30という結果でした。くわしくは食味ランキングとはをご覧ください。
食味値の限界
ここが一番大事な部分です。公的資料は、食味値の限界をはっきり書いています。
青森県の資料(農林水産省サイト掲載)から引用します。「食味測定機器による食味推定値と官能検査の総合評価値との相関は必ずしも高くはない。これは、日本人の食味感覚に一定の傾向はあるものの、地域別や個人別にみると嗜好に差が見られるためである」。
さらに、利用者からは次のような声があるとも書かれています。
- 官能検査の結果と合わない
- 測定値が機種(メーカー)によって異なる
- 化学分析値と一致しているか分からない
測定の精度についても「理化学分析値と相関が高くほぼ実用レベルに達しているのは水分とタンパク質であり、アミロースについては数値がばらつき利用できない状況」と率直です。
機器メーカー自身も同様です。静岡製機は自社スコアについて「このスコアは当社独自のものですから、他社のいわゆる食味計と比較した場合、同様の値が得られるとは限りません」と明記しています。
結論
公的資料の結論はこうです。「食味推定値については大まかな目安とし、理化学分析や官能検査で測定精度を確認しながら適切に利用することが期待される」。食味値80が食味値75より必ず美味しい、とは言えません。同じ機種で比べたときの参考値として見るのが正しい使い方です。
等級とも別のもの
もうひとつ混同されやすいのが農産物検査の等級です。1等・2等という区分は整粒歩合・水分・死米・着色粒などで決まる外観の規格で、検査項目に食味やタンパク質は含まれていません。
ただし無関係でもありません。福井県は特A相当の条件に整粒歩合70%以上を、奈良県はヒノヒカリの目標に整粒割合80%以上を挙げています。見た目が整った米は、味の面でも条件が整っていることが多い、という関係です。等級についてはお米の等級とはで解説しています。
よくある質問
食味値は何点以上なら美味しいですか?
タンパク質は低いほどよいのですか?
食味値と食味ランキングはどちらが正確ですか?
食味値はどこで測ってもらえますか?
- 青森県「米の食味評価」(農林水産省サイト掲載)
- 静岡製機 米の食味分析計(お米の成分・特性の品質)
- 日本穀物検定協会 食味試験の方法
- 福井県 指導活用技術手引き(平成27年度)
- 農林水産省 米の農産物検査規格
制度や数値は改正・更新されます。最新の内容は各出典をご確認ください。








