お米が「古くなる」とは、具体的に何が起きているのでしょうか。温度を下げるとなぜ長持ちするのか。大学や公的機関の貯蔵試験のデータをもとに、しくみと家庭でできる対策を整理します。
① お米は収穫後も呼吸していて、温度が高いほど成分の分解が進みます。いちばん早く傷むのは脂質です。
② 試験では15℃以下なら1年貯蔵でも変化がほとんど出ず、25℃では数か月で劣化の数値が跳ね上がりました。
③ 家庭では冷蔵庫の野菜室が理想。農林水産省は精米後1か月くらいを目安としています。
お米が古くなるとき、何が起きているのか
収穫された籾や玄米は、まだ生きています。呼吸をして酸素を消費し、二酸化炭素と水蒸気、そして熱を出します。この呼吸は温度が高いほど、湿度が高いほど盛んになり、穀温の上昇と水分の増加を招いて成分を消耗させます。
成分の中でいちばん早く分解が進むのが脂質です。順序はこうです。
- リパーゼという酵素が中性脂質をグリセリンと遊離脂肪酸に分解する
- 遊離脂肪酸がさらに酸化分解され、ペンタナールやヘキサナールになる
- これが古米臭の正体
でんぷんはアミラーゼで分解されて還元糖が増え、たんぱく質もペプチドやアミノ酸に分解されていきます。
脂肪酸度という物差し
お米の劣化の程度を数字で示すのが脂肪酸度です。分解で生じた遊離脂肪酸を取り出し、中和に必要な水酸化カリウムの量で表します(単位はmg KOH/100g)。
目安として、学術論文では「20〜25mg以上で劣化を示す」とされています。よく見かける「新米は20以下、古米は30超」といった数字は、公的な資料では確認できませんでした。
温度でこれだけ変わる|試験データ
精米の1年間貯蔵(北海道大学)
市販精米を温度を変えて貯蔵した試験では、脂肪酸度の増え方に大きな差が出ました。きらら397の普通精米の場合です。
| 条件 | 脂肪酸度 |
|---|---|
| 貯蔵開始時 | 4.7 |
| 15℃で12か月 | 18.9 |
| 25℃で9か月 | 21.5 |
報告では「15℃以下では多くの理化学測定項目で貯蔵終了時まで変化が認められなかった」とされています。一方25℃では、炊いたご飯のつやが3〜5か月で落ち、新鮮度の指標も1か月後には低下していました。
玄米・籾の長期貯蔵(北海道大学)
籾を4年間(1450日)貯蔵した試験では、5℃以下なら48か月後も玄米の脂肪酸度が増えませんでした。25℃では1年以上で品質劣化と判断できる水準まで上昇し、12か月以降は玄米の白度も低下しています。
コシヒカリの貯蔵(新潟大学)
5℃・15℃で3〜6か月では古米化の傾向がほとんど見られず、25℃・35℃では脂肪酸度の増加など古米化の進行が確認されました。
低温倉庫が15℃以下である理由
1930年代末以降の研究で、低温貯蔵が酵素活性の低下、でんぷんの分解、たんぱく質の変性、脂質の分解を抑えることが分かりました。これをもとに「夏季でも温度が15℃以下、湿度70〜75%」に保つ低温倉庫が全国に建設されています。
籾・玄米・精米、どれが長持ちするか
貯蔵性の順序ははっきりしています。
低温の籾 > 低温の玄米 > 常温の籾 > 常温の玄米(北海道立中央農業試験場の長期貯蔵試験)
そして白米は、籾や玄米に比べて劣化が早いため長期貯蔵は行われません。精米するときに糠の層が粗く剥がれることが主な理由です。逆に言えば、糠層をやさしく均一に剥がす低圧力精米では脂肪酸度の増加が抑えられ、常温の玄米貯蔵と同等以上という試験結果もあります(農研機構・1994年)。
古米臭を抑えるのに効くこと
意外なのが光の影響です。玄米を開放状態で貯蔵した研究では、過酸化物価が貯蔵開始直後から増え始め、脂肪酸度は30日後から増加しました。そして「過酸化物の抑制に最も効果的な方法は、周囲温度によらず暗所保存」で、脱酸素剤の効果は補助的だったと報告されています。
品種の側からの対策も進んでいます。玄米には脂質を酸化させるリポキシゲナーゼという酵素が3種類あり、そのうちLOX3が全体の8割以上を占めます。農研機構はこのLOX3を欠いた個体をDNAマーカーで選抜する技術を開発しています。
家庭ではどう保存すればいいか
農林水産省の見解はシンプルです。
- 精米した白米は低温(10〜15℃)で、湿気が少なく直射日光を避けた場所に置く
- 理想的なのは冷蔵庫。ただし庫内は乾燥しやすいので、ペットボトルなどの密閉容器に入れるか野菜室へ
- チャックで密閉できる保存袋に小分けするのもおすすめ
- 精米して時間がたつほど味が落ちるので、1か月くらいが目安
上の試験データと合わせると、夏場の常温保存(25℃以上)がいかに不利かが分かります。逆に15℃以下を保てるなら、1か月を超えても品質はかなり保たれます。
よく見る「夏は2週間、冬は2か月」という目安について
この季節別の目安は民間サイトで広く見かけますが、農林水産省や農研機構の資料では確認できませんでした。公的に示されているのは「1か月くらい」という目安だけです。
虫とカビの話
高温はもうひとつの問題も連れてきます。お米につく代表的な害虫コクゾウムシは、25〜30℃・湿度70%の条件で、産卵から成虫が出てくるまで約1か月です。夏の常温保存は、劣化だけでなく虫のリスクも高めます。
虫が出てしまったときの対処はお米に虫がわいたで、保存方法全般はお米の正しい保存方法で解説しています。
よくある質問
お米は冷蔵庫に入れたほうがいいですか?
精米してから何日くらいで味が落ちますか?
玄米で買って自分で精米したほうが長持ちしますか?
古米臭を防ぐにはどうすればよいですか?
- 農林水産省 米の貯蔵中の変化、低温貯蔵効果
- 農業機械学会誌 精米の貯蔵温度と品質変化(北海道大学・2008)
- 農業機械学会誌 籾の長期貯蔵試験(北海道大学・2004)
- 日本食品科学工学会誌 玄米貯蔵と脂質酸化(2008)
- 農林水産省 お米の保存方法(消費者相談)
- 農研機構 玄米の古米臭に関わる酵素の選抜技術
制度や数値は改正・更新されます。最新の内容は各出典をご確認ください。








